「わたしのマンスリー日記」 第9回 水害地名の反響あれこれ

【8月12日】「うわべの情報」ではなく!
隆祥館書店の「作家と読者の集い」にも、ご登場下さった地名作家で、筑波大学名誉教授・谷川彰英さんの最新刊をご紹介します。
「全国水害地名をゆく」集英社インターナショナル発刊
近年増加している、集中豪雨や台風による被害。水害が多い地域では、古くから水と闘いながらも共生してきた人々の記憶が地名に込められています。けれども埋め立てや漢字表記の変化などで、時代とともに地名の由来は忘れられてしまうこともあります。
隆祥館書店のイベントで、印象に残っていた地名は、「蛇落地悪谷」(じゃらくじあしだに)2014年8月、広島市に、集中豪雨が襲い、それにより大規模な土石流が発生、死者74名。
「蛇落地悪谷」は蛇によって崖が崩壊するという伝承を今に伝える地名だったそうです。昔の人々が、もともと人が住んではいけない土地であることを伝えていたのに、「蛇落地悪谷」では余りにもイメージが悪いということで、「上楽地芦屋」(じょうらくじあしや)と改称され、現在の「八木」になったとのことでした。
家を流された住民は、「上楽地芦屋」という地名に惑わされてしまったのだそうです。その意味では人災と言えます。
谷川さんが、隆祥館書店のイベントで話されていたのは、文献を徹底的に読み込むこと、そして、必ず足を運ぶこと。現地の風のさざめきや、鳥のさえずり、人々の声を含めての地名だからと話されていました。
また、僕が研究するのは、地形じゃなくて、歴史や人の思いが名前の根底にある場所だと仰ってました。
今は、うわべの情報が多くて、それに流されてしまいがちですが、谷川さんは、現地の息遣いを教えてくれる貴重な作家さんです。本も、それらを元に、史実に基づいて書かれています。
本書には、第8章に、『こんな地名に要注意!』という章もあります。広島の地名による人災の例もあります。命を守るためにも、ぜひ、読んでいただきたい一冊です!
隆祥館書店にて、絶賛発売中です!
ご存知の方もあると思いますが、谷川さんは、2019年に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。大変な状況の中、この本を出して下さったのは、同じような痛みを背負いながらも、様々な悩み・苦しみと闘っている人たちに生きる勇気と元気を届けることになればとの思いからと書かれていました。
谷川さんが、どのような苦境の中で、どのような想いで書かれたのかを考えると、伝えなければならない使命のようなものを感じました。
新聞は、2018年12月17日の全国商工新聞です。お時間許せばご覧ください。
   (隆祥館書店店主 二村知子さん)

*この出版不況の中、良書を売ることで超頑張っている書店が大阪にあります。隆祥館です。店主の二村知子さんは「読書は心の森林浴」をモットーに、「作家と読者の集い」を企画し、良書の普及に尽力されています。私がこの集いに招かれたのはちょうど10年前の2013年10月、『大阪「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)の出版が直接のきっかけでした。ビルの階上に設けられた小さなホールに数十人の隆祥館ファンが詰めかけてくれました。
 隆祥館を最後に訪れたのは2018年の11月のこと、二村さんとの対談のためでした。私の体はすでに10メートルを歩くのがやっとという状況でしたが、二村さんの「うわべの情報に流されない本を読者に届けたい」という強い思いに勇気をもらいました。

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